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ターミナル6

2013.11.08 19:44|仕事
息子さんは突然に来た。
風呂敷に何かを包んで持っていた。
「おやじに今会えますかね?」
「今、ちょうど往診中なんですが・・・
お医者様ともお話になりますか?」
そう答えると、息子さんは、「ええ、ぜひ。」とうなずいた。
「おやじが本当はいつまでもつのか、聞きたいです。」
大丈夫だろか。Sさんの様態は変化しないだろうか。
不安になりながらも、
私が同席するという条件で面会をすることとした。

自室の廊下で、ちょうど往診を終えた医者と私たちは会った。
息子さんは、医者のそばに走って行った。
「おやじは、どうなんですか?どのくらいもつんですか?」
「今はちゃんと声かけに反応しています。急変がない限り
やはり・・前回申し上げた通りかと・・・。
脈が弱い方ですが、肺が強い方なので、何とも言えません。」
「そう・・・ですか。やはり、もう、もたないんですね・・」
息子さんは涙声になっていた。
それから、つかつかと歩きだし、Sさんの自室のドアをがらがらと
大きな音を立てて乱暴に開けた。

「おやじ、今日は、母さんを連れてきた!!」
そして、ぐったりとベッドに横たわっているSさんに近づいた。
骨と皮の骸骨のような顔で、痛みに耐えながら荒い息をしている
Sさんの目の前でその風呂敷を広げた。
そこには白黒写真の女性の着物姿の遺影と位牌があった。

「母さんの写真だよ。わかるよね。母さんだよ。
あんたが散々理由もなく殴って、蹴って、罵ったかあさんだよ!!」
はぁはぁ・・・という呼吸の音がする。
Sさんはその定まらない頭を写真のほうにむけようとしていた。
黒目がゆらゆらと泳いでいた。
「やっぱりね。俺はよくても。姉さんがよくても。
母さんには謝ってもらいたいんだよ!
俺があんたの保証人になったんだ。その条件だよ!
前ににも言っただろ!謝ってくれれば面倒を見るって。
でも、あんたは謝らなかった、だから、俺はあんたの面倒を放棄した。
ねえさんが言ったんだ、もう、忘れろって。父さんの保証人になれって。
世間体もあるでしょ、もう、おとなでしょって。
だから、一度は納得しようと思った。
あんただって、こうやって苦しんでいるんだからな!
今までの報いをこうやって受けているんだから、仕方ないって。
でも・・でも・・やっぱり・・母さんのことは、許せないんだよ!!
謝れよ!!母さんに・・・」

はぁ・・・はぁ・・・と荒い息をしながら
少しずつSさんは動いた
声がする方に体を動かそうとしているようだった。
「Sさん、あぶない!!」
私はかけよって、Sさんの体を支えた。
「Sさん、苦しいですか?」
「あ・・う・・・」
「息子さん来てます。わかりますか?」
「あ・・・う・・・」
Sさんはゆっくり、ゆっくり動かせる方の左手をあげて、
息子さんを指さした。「あ・・・あ。」
Sさんのほほが紅潮していた。
呼吸数が上がっているように見える。
熱感がある。やばいな。KTはどのぐらいだろう?
このまま面会を続ければ、また急激に体調が変化しそうだ。

「わかるんだろ!わかってるんだろ!
全部わかってるんだろ!だったら、謝れよ!!
母さんに謝れよ!!すまなかったって。悪かったって。
謝れよ!!でないと、母さんがうかばれないよ・・。」
息子さんはその写真をSさんの目の前に差し出した。
「母さんに謝れよ!!」
涙交じりの大声が部屋に響いた。
「一言でいいから・・謝ってくれよ・・・」

傍から見れば。
これはもう茶番でしかなかった。
息子さんが必死になればなるほど。
その声は悲しいほど滑稽に響いていた。

「すいませんが、今のSさんには、無理です。」
私は言い切った。
「体力的に、これ以上の面会は無理です。すいません。」
え?と息子さんは私を見た。
それは、あなたには俺の気持ちがわからないのか?
というような表情だった。
「介護士として、これ以上、Sさんに無理させるわけには
いきません。すいませんが。面会はここまでにして下さい。」

息子さんは何も言わずに立ち上がり
遺影と位牌を風呂敷に包みなおした。
「おやじは、謝らないで逝くつもりなんだな・・・」
そう言い残し、またつかつかと歩き去って行った。
階段を乱暴に歩く音がして「失礼します!」という
大きな声が聞こえた。

Sさんの部屋は静かになった。
私はため息をついた。
これでよかったんだろうか。わからない。
西の窓から茜色の光が差し込んできて
部屋全体が「夕日色」としか言えない色に染まった。

私はSさんのケアをした。
KT、BP、SPO2、呼吸数を測定しおむつ替えをし
尿量測定し、薬を服用させ、とろみによる水分摂取をした。
やはり、熱発している。血圧数値も悪化。呼吸数もよくない。
この状態でも、Sさんにはちゃんと息子さんが言っていることが
もしかしたら、わかっているのかもしれない。
この体調の悪化は、罪悪感なのか、ただの興奮なのか。
クーリングするか、熱さまし服用か・・と考えていると
Sさんが突然、仰向けのまま天井を見つめて言った
「・・・ど・・らやき・・・」
「どらやき??・・どらやき、食べたいですか?」
「ああ・・はい・・」
「すぐにもってきます!」
Sさんがはっきりとした意思表示をした!
久しぶりのことだ!
私は急いでどら焼きを細かく切り
お湯に浸し柔らかくして、Sさんの自室に持って行った。
このごろ、食事摂取量が一段と落ちている。
なんでもいい、少しでも食べてくれれば・・・。
そう、祈るような気持だった。
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Comment

No title

こんなことが本当にあるとは、ドラマのひとコマのようで、信じられない・・・

miraさんたちは、人生の深いところに関わって、
多くの場面に出会っておられるんでしょうね。

宇宙人さん

うーん、このときは本当に困ったのです。
私もこのような場面は初めてでした。
きっと息子さんは
「ドラマのようにおやじが泣いて謝る」のを
期待していたのかもしれないですね・・・
遺影と位牌まで持ってくるのですから・・・。
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mira

Author:mira
パートの介護職のへタレおばさん。
そして
ちょっぴりヲタクが自慢。
私の知識の80パーセントは
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