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ターミナル

2013.10.29 20:31|仕事
この仕事で精神的にくるのは。
すごく忙しいことよりも。なによりも。
ターミナルケア。終末期のケア。

コールが鳴る。頻回なコール。
番号を見なくてもわかる。21番。Sさん。
坂道を転がり落ちるように毎日毎日ADL(身体能力)が
落ちていて、痛みも増している。
末期のがん。全身の転移。ご本人より入院は拒否され
「この施設での最期」を希望されている。

Sさんの部屋へ急ぐ。
「どうしましたか?」
Sさんはベッドの端に座り、頭を抱えていた。
「・・・わたしは・・どうしたら・・いいのですかね・・」
「つらいのですか?」そういいながらSさんのそばに行く。
「・・頭が・・痛いのです・・
どうしたら、痛みがひきますかね・・・」
Sさんの右の鎖骨あたりに卵大の腫れがある。
ここに来た3か月前はビー玉大だった。
はっきりと目に見える腫瘍。こんなに大きくなっている。
そして、頭痛の訴えは。
脳に転移しているか、脳に水がたまっているか。
背中をさする。
「痛いのです・・・頭が・・あと、右肩が・・。
どうしたら、いいですかね・・。」

看護師に相談して痛みどめを出してもらうか・・
ただ、痛みどめは、血圧を下げてしまうから
その前に体温と血圧をはかり~等々を考えながら
Sさんの背中をさする。
「辛そうですね。」
「ああ・・私は、もうすぐ死ぬのはわかっているのですが。
この辛いのをどうしたらいいのか・・・。」
Sさんは力なく笑う。
「私たちもSさんの痛みをとりたいと頑張ります。
まずは看護師に相談してきます。
あと、3時のおやつにSさんが好きな芋羊羹がでてます。持ってきますね。」
「ああ・・・ありがとう・・」
ゆっくりとSさんをベッドに横にする。
ベッドの枕脇には、Sさんの息子さんからの手紙がおいてある。
手紙というより、文書。A4のワープロ書きの文書、12枚にわたる。
Sさんは・・・これをまだ読んでいるのか。

Sさんは、3か月前にここに来た。
とてもとても、頑固で人の話を聞かないおじいさんだった。
一方的にわがままを言い、それが通らないと声を荒げて怒っていた。
ここのご飯はまずい。もっとうまいもの出せ。
その言いぐさはなんだ。ばかやろう!言い返すな!・・等々
皆怖がってケアが大変だった。
ある日、Sさんの枕元にA4の厚い文書を見つけた。
「Sさん、これは・・?」恐る恐る聞くと
「息子から入院前にもらったものだ。ほら!」と私に投げてよこした。
「読んでいいんですか?」聞くと
「好きにすればいい!」Sさんは言い捨てた。

それは、お父さんへ~で始まる息子さんからの文書。
”あなたのこの先の人生に私は一切かかわりません。
あなたは好きに生きればいいのです。ここにその理由を書きます。”
私は読んでいて声をあげそうになった。
すごいな、これは。

”私が小学4年生の時、あなたは、私が真剣にいじめられていることに
悩んでいるのに、何もしてくれなかった。それどころか
いじめられる私が悪いと、私を殴りましたね。
その時に私はなんて冷たい父親なんだろうと初めて思いました。
それから、私が6年生の時、覚えていますか?あなたは
一方的に母に怒鳴り私の目の前で母を殴りましたね
そして止めに入った姉と私も殴った。あの時から
この人のようにはならないと誓いました。”
それから、それから・・・えんえんと息子さんの独白は続いていた。
父親の横暴。そして父が退職してから年金以外の全財産を
だまされたこと。止めたのに「俺の金だ!好きに使って何が悪い!」と
全然聞く耳持たなかったこと。
”このように、私の人生はあなたに振り回されてばかりでした。
具合が悪くなったからと言って、手のひらを返したように
私に頼られても、謝りもしないあなたに関わりたくありません。
お望み通り好きに生きてください”
そう結ばれていた。
たぶん事実なんだろうな、ここに書かれているのは。
そう思わせる、とつとつとした文章だった。
息子さんにとってみれば、書かずにいられなかったのだろう。

Sさんは、これをどんな気持ちで読んだのか。
どんな気持ちでこの文書を枕元においているのか。
私には想像ができなかった。

しかし、Sさんの病状は甘いものではなかった。
一日一日とADL(身体能力)は落ちていった。
来た当初は歩いていたのが、足に力が入らなくなり
その一週間後にはまったく歩けなくなった。
今では立つのもやっと。足のむくみが急激に悪化したためだ。
食事の摂取量も激減している。
腫瘍が食道を邪魔しているのか、むせこみ飲み込みも悪化している。
トイレにも全く行けなくなり、失禁が続きおむつで対応。
一か月後には着替えも自分でできなくなった。
リンパの腫瘍が育ち、右手が上がらなくなったためだ。
右手と右足がパンパンにむくみ腫れ上がってきて
一か月で靴がMサイズから5Lになった。
体内の水の排出がうまく機能していない証拠だ。
そのうち・・近いうちにむくみ上がった手足から
汗のようにじわじわと水がしみだしてくるだろう。
そうしたら、尿取りパットを手足に巻かなくてはならない。
そして、もうすぐペインコントロールに入るはずだ。
痛みどめという名前の麻薬。麻薬でしか収まらない痛み。
以前のターミナルケアで経験しているからわかる。
普通の人が過ごす一日の間
この方は猛スピードで老いていっている。そんな感じだ。
ADLの落ち方と比例して、Sさんは怒鳴ることがなくなった。
怒鳴る体力も気力もなくなってきた。
はぁはぁと荒い息をして、痛みをこらえ
おむつ替えをしてもお茶を飲ませても
「すまんね・・迷惑かけてるね・・」と
小さな声で言うようになった。

その間、私たちとケアマネは再三息子さんと連絡をとった。
「お父様が悪化しています。お父様とお会いにならなくても
話さなくてはならないことがあります。
一度お会いしたいのですが・・。」
ターミナルについては、ご家族と話さなくてはならないことがある。
私たちも必死に息子さんと話をしたがいい返事はなかった。

けれど。
ある日突然、なんの連絡もなく。
その息子さんはここに来た。
「おやじに会いたいのですが・・・」

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Author:mira
パートの介護職のへタレおばさん。
そして
ちょっぴりヲタクが自慢。
私の知識の80パーセントは
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